経済産業省は2018年に「DX推進ガイドライン Ver.1.0(平成30年12月)」を発表し、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義し、推進しています。
D Xが必要不可欠な時代へとなってきている中、何のためにD Xを進めていくのか、進めていくとどうなるのか、といった原点に立ち返り、コアを理解していくことが改めて大切だと感じます。
日本のDX第一人者である東京通信大学の前川教授も言われるように、D Xとは単なる情報のデータ化だけではない(*1)と理解することが大切です。DXはあくまでも人が中心となってデータとデジタル技術を用いながら、業務や組織などを変革、改善していくことで、「デジタル」と「人」ができることを最大限にかけあわせていく方法を模索し続けなければなりません。
そこで、One&Coで実施したDXセミナーの講師、GAOGAOの手島拓也さんと第1回セミナー参加者のお一人である双日株式会社(Sojitz Asia Pte. Ltd)の田村裕治さんをお迎えし、双日株式会社が導入した人事のDX推進について伺い、「DXと人」について一緒に考えるべく、本対談をお願いしました。
プロフィール
田村裕治さん(左) | 双日アジア会社(Sojitz Asia Pte. Ltd)https://www.sojitz.com/jp/
General Manager of HR & General Affairs Department (人事総務部長)
同社13年勤務。2019年7月に渡星。渡星前には東京本社で人事のD X「タレントマネジメントシステム」導入に関わる。
プロフィール
手島拓也さん(右) | GAOGAO Pte. Ltd. Co-Founder&CEO
https://gaogao.asia
これまでIBM研究所やLINEなど10年間以上ソフトウェアエンジニアとしての開発現場を経験。現在はコンサルタント兼エンジニアという立場で東南アジアの企業を中心に新規事業立ち上げ支援や顧客向けの価値提供の最大化と社内組織自体のデジタル化に注目したDXの推進を進めている。
商社のDXへの取り組みと課題について
田村さん
双日における「D X人材」の定義は「既存のビジネスや業務の変革、新たなビジネスモデルを創出することを実践するために、データとデジタル技術を活用できる人材」としています。また、そういったことができる人材が「D X人材」と定義しています。
人事の課題として、採用や部署配置などにおける人事は、人の勘や経験だけを基に行われてきたことがあります。それが果たして最適の適材適所であるか、という疑問を抱いてきました。そこで、これまで集めていなかったデータを集約し、分析し、人事に活かしていこうという観点から人事にD Xを導入する「タレント・マネジメントシステム」の導入を提案しました。
手島さん
D Xを取り入れることで、魔法のように全てが解決すると思っている方や企業はまだまだ少なくないです。DXとは単なる情報化・デジタル化だと勘違いする人、企業が多い現状がある中で、御社(双日株式会社)は段階的にきちんとD Xに取り組んでいらっしゃる点が素晴らしいですよね。
「タレント・マネジメントシステム」でデータ集約をし、思わぬインサイトがあった事例は何かありましたか?
田村さん
今まさにそのデータの活用方法を模索している段階です。取り組み中のものもいくつかあります。日本企業の中では、人事にD Xを取り入れること自体は早い段階であったと自負しています。
D X導入の際の課題について
手島さん
田村さんは「タレント・マネジメントシステム」の日本本社への導入そしてアジア版の開発と海外での展開、両方に関わっていらっしゃいますよね。
人事データをデジタル化するということは、割と予算が必要な取り組みですが、導入する際に、どう会社を説得したんですか?費用対効果など懸念点はたくさんあったと思いますが。
田村さん
導入はかなり大変でした。1つは決定権のある人たちが、これまでの人事を感と経験でなんとかしてきた節があり、データというものへの信頼度があまり高くなかったことがあります。自分の体験したことがないことに対して疑心感を抱いてしまう、ということがあったと思います。そういった抵抗が本当に強かったです。
しかし、当社は二社の合併会社であり、リストラや退職などの結果、他社に比べて管理職候補となる人材が少なくなってしまった時期がありました。限られた人材の中で、若手を管理職に育成することが必要となったこと、そして社員の「誰が何ができるのか」という経験や能力を把握することが求められていることがありました。同じチーム内では、メンバーそれぞれの長所や経験を把握できていても、会社の全体組織として全員を把握することは不可能ですよね。そういった事実を強調し、社員それぞれの経歴や業務内容などをデータ化し、そのデータ情報を活用していく目的でシステム導入に至りました。
手島さん
セミナーでも何回か述べましたが、社内の抵抗には業務フローの段階で企画段階から巻き込むことが重要であると思っています。
特に社内での決定権のある方々は、普段あまりデジタルに関わっていない人たちの場合が多く、導入が難しいという話をよく聞きます。また、現場の方々がこれまでのフローをガラッと変えてデジタル導入するということに抵抗のある人も多いです。
そういった点からも、田村さんのように現場から提案をし、決定権のある層を企画段階から巻き込む戦略はすばらしいと思います。
「タレント・マネジメントシステム」導入後の次のステップとしては、情報データを活用して、「意思決定」を人かA I、どちらの精度が高いのかなどをケーススタディなどから検証していくことでしょうかね。例えば、「離職しやすい人」を察知していったり、こういった性格タイプの人は、プロジェクトに関わった方が伸びやすいなど。
田村さん
そうですね。これまで人がやってきた人事関連の決定根拠として、A Iやデータ情報を活用していきたいです。
「タレント・マネジメントシステム」を海外でも展開していくということで、2020年12月に日本貿易振興機構(JETRO)が日本企業のASEANを起点としたDXの加速を目的とした共創型プログラム「ASEAN DXPF Corporate Innovation Program」にチャレンジオーナーとして参加しています。3つのテーマの中の1つである“Building New Synergies by Digitalization of Human Resource Model”に応募したスタートアップと一緒に、現地の社員を対象にデータ管理やユーザー管理を始めようとしています。
今現在、コロナ渦において、駐在員を送ることが難しくなってきている状況がある中で、シンガポールでの現地人材の採用傾向がますます増えていくと思います。そういったこともあり、情報整理はもちろん、ユーザーフレンドリーではないところを改良していきながら進めていきたいです。
後編では、DX導入・促進の鍵、これからDXが向かうところについての対談をお届けします。
One&Coでは手島さんを講師にお迎えし、「DXの知識を得る」だけでなく、参加者自身が「DXの実行」をよりイメージできるような成果を得られることにフォーカスした勉強会「いまさら聞けないDX」を実施しております。ワークショップを通じ、参加者自身が職場など身近なところでDXの必要性を一層意識し、より実践に活かせるような価値をこの勉強会を通じて届けることを目指します。
セミナーについては、以下のリンクからご参照ください。https://www.oneandco.sg/ja/community/dx2/