One&Co | Contribution|シンガポールで広まる職住一体型「コ・リビング」という暮らし方
FEATURE
2020.03.18

Contribution|シンガポールで広まる職住一体型「コ・リビング」という暮らし方

コワーキングスペースを始めとした近年のシェアリングエコノミー拡大に伴い、世界各国・地域で職住一体型の「コ・リビング」という暮らし方が増えています。シンガポールでも、スタートアップをはじめ政府系大手事業者や外資系企業など、コ・リビング事業への参入が多くみられ、これら事業者は自国にとどまらず、世界へと展開しています。今回、JETROシンガポールさんに寄稿頂き、シンガポール発のコ・リビングを取り巻く状況を紹介頂きます。



南原将志(ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当)
2014年、香川県庁入庁。2018年4月ジェトロ海外調査部アジア大洋州課。2019年4月より現職。シンガポール赴任後の3ヶ月間をコ・リビングハウスで過ごした経験を持つ。


ミレニアル世代の間で普及する「コ・リビング」

「コ・リビング」とは、コ・ワーキングスペースの概念をシェアハウスに取り入れた居住施設で、多様な属性の居住者が仕事をしつつ、ともに生活できる職住一体型の住宅を意味します。近年、ミレニアル世代(本稿では1981~96年生まれと定義します)を中心に、オフィスを持たないコ・ワーキングスペースでの就労、Youtuberなどのフリーランスといった、新しい働き方が増加する中、特定の地域に根差さず、居住地を流動的に変えるライフスタイルの浸透に伴って、コ・リビングという新たな暮らし方を選ぶ人がミレニアル世代を中心に増えています。

多くのコ・リビング物件には、共用と個人用のスペースがあり、共用スペースのリビングルームやキッチンなどでは仕事、食事、だんらんと自由に過ごすことができます。サービスアパートとは異なるコ・リビングの最大の特徴は、事業者が住人同士の独自のコミュニティの形成、運営に力を入れているところにあります。コ・リビング運営事業者や住人などが企画するパーティや勉強会、イベントなど様々な催しが行われ、知らない土地でも簡単に友人ができ、仕事にもつながるネットワークづくりができることが最大の魅力と言えます。

筆者が住んでいた物件の様子 【左】共用リビング 【右】参加したイベント (筆者撮影)

筆者がシンガポールに赴任したのは2019年4月。シンガポールの同僚に薦められて、リトル・インディアのムスタファセンター近くのショップハウスにあるコ・リビングハウスに3カ月ほど住んでみました。住居スペースを共有したのは、IT業界で働くインド人やインターンとして働くイタリア人、留学生など異なる国々からきた住人たち。週末には同じコ・リビング・グループが運営する住人たちとのバーベキューや、パーティ、ピクニック、ボランティア活動など、異なる物件に住むメンバーとも多く交流を持つことができました。また、スタートアップ業界で働くメンバーとの間で情報を共有するなどビジネスに繋がる一面もあり、非常に有益な3ヶ月間だったように思います。

従来の住宅で満たせないニーズを満たすコ・リビング

シンガポールでは、住宅として登録された民間のコンドミニアムは3カ月、HDB住宅(公営の集合住宅)は6カ月の最低賃貸期間が法律により定められています。しかし慣習的に、コンドミニアムの賃貸の場合、通常1~2年の契約が多く、水道やガス、電気といった公共インフラ、インターネット環境は各転居先での手続きが必要です。一方、コ・リビングは、短期での賃貸が可能なうえ、新しい働き方に合った住環境、従来の住宅では満たせないニーズを満たすものと言えます。

シンガポールにも多くコ・リビング事業者がいる中、代表的な事業者の1つと言えるのが、シンガポール発のコ・リビング事業者「ハムレット」です。同社は、2016年に同国で創立後、2017年にシードラウンドで150万米ドル、2018年11月にはシリーズAで650万米ドル、2019年7月には、シリーズBで4,000万米ドルの調達に成功しています。その事業は国内に留まらず、シンガポールを拠点に香港やオーストラリア、日本にも展開するなど、急速に成長しています。また、2019年9月には、最低宿泊期間が6日間と短期での用途ニーズに対応可能な物件をオープンしています。

大手サービスアパート事業者や外資もコ・リビング事業に参入

また、近年では、スタートアップだけでなく、コ・リビング事業への大手企業による参入も相次いでいます。シンガポール政府系の不動産開発会社キャピタランド傘下のホテル・サービスレジデンス運営大手アスコットは、コ・リビング・ブランド「ライフ (lyf)」を立ち上げ、2019年9月に、同社としては初のコ・リビング施設「ライフ・フナン・シンガポール」をオープンしました。同施設は、ホテル業のライセンスを持つため、1日から数ヶ月の長期にわたるまで自由な滞在が可能です。

ライフ・フナンの様子 【左】入口 【右】共有スペース ショッピングモール内に設けられた入口は隠れ家風につくられています。(筆者撮影)

また、外資企業による展開も進んでおり、韓国の建設会社コロン・グローバル・コーポレーションも、傘下のリベトを通じて2019年4月、シンガポールにコ・リビング「コモンタウン」を開業。上海の中富投資集団も2018年3月、シンガポールにコ・リビング「ログイン・アパートメント」を開設するなど、外資も続々と参入しているのが現状です。

シンガポールを起点に周辺国・地域へ展開、日本へも

ハムレットとアスコットはともに、シンガポールを皮切りに、周辺国・地域へも積極的に展開しています。ハムレットは既に香港、オーストラリア、日本で展開しており、日本では2019年12月、東京都内に日本第1号のコ・リビングハウスをオープンしました。2020年2月には第2号物件をオープンし、同年6月までに東京都内で1,000部屋まで拡大する計画です。また、アスコットも、ライフブランドの物件をタイ、フィリピン、マレーシア、日本、中国などに続けてオープンする予定です。日本では、福岡に開業予定の物件は、NTT都市開発が開発中の複合商業施設について運営委託契約を結び、コ・リビング・スタイルのホテル「ライフ天神福岡」を2020~2021年に開業予定となっています。

日本では既に、複数物件の定額住み放題サービスのコ・リビング事業者が多くあります。そんな中、ハムレットは、外国人への言語面でのサポート体制や、メンバーとのコミュニティ活動を通した人脈形成などにより、差別化を図っています。これまで日本には無かった新しいビジネスモデルで日本市場に挑戦する、シンガポール発のコ・リビング事業者の今後の展開が注目されます。

*ジェトロではシンガポールを初め世界各国、最新経済トピックを「地域・分析レポート」として発信しています。経済、IT、文化など様々なテーマでお届けしています。 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/



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