シンガポールを含む東南アジア地域は、e-commerceでは世界でも有数の市場規模をもちます。シンガポール政府の投資会社であるTemasekとGoogleが2016年に実施した共同調査の結果によると、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの6カ国でインターネットユーザーは2.6億人となり、これは世界で4番目に大きい市場規模です。また、成長率も高く、5年間でCAGR14%で増加する予測です。
シンガポール人はe-commerceで何を買っているのでしょうか?SAPが2018年に実施したオンライン消費者動向調査では、シンガポールでよく購入されているものは、旅行(77%)、ファッション(76%)食料雑貨品・消費財とデジタル商品(それぞれ55%)のようです。同じ調査の日本での結果は、ファッション(76%)、食料雑貨品・消費財(70%)、旅行(57%)となり、購入されているものの傾向の違いが見てとれます。ちなみに、同調査によると、シンガポールのオンライン消費者は、10回中7回はカートを放棄しているとのこと。シンガポール消費者のe-commerceでの購入を最後にひと押しするのは難しいようです。今回はシンガポールのe-commerceスタートアップを取り上げます。
-Founded:2008(ニューヨーク証券取引所に上場)
-URL:seagroup.com/home
Seaは、e-commerceプラットフォームであるShopeeとデジタルエンタテイメントプラットフォームであるGarenaを運営する企業です。すでにニューヨーク証券取引所にも上場しており、スタートアップの域は出ていますが、日本では意外と知られていない、東南アジアのe-commerceを牽引するプラットフォームのひとつです。もともとゲーム開発会社としてGarenaをスタートし、その後e-commerceプラットフォームのShopeeが新しく立ち上がり、現在に至ります。現在、Shopeeは、インドネシア、マレーシア、フィリピンなど東南アジア各国のほか、ブラジルなど東南アジア以外の地域にも展開を進めています。CEOのForrest Liは現在シンガポール在住ですが、もともとは中国出身です。2005年、スティーブ・ジョブスがスピーチをした年にスタンフォード大学のMBAを卒業しており、彼自身、そのスピーチに触発されてGarenaを創業したとForbesに語っています。Forbes Singapore’s 50 Richest 2019にも選ばれており、シンガポールでe-commerceプラットフォームを確立したことによって多くの財産を築きました。GrabのコファウンダーであるTan Hooi Lingとともに、シンガポールEDBのボードメンバーにも選ばれています。
-Founded:2012
-Funding:USD 182.8M
-Investors:Sequoia Capital India, EDBI, Rakuten, Rakuten Capital, OLX Group, etc.
-URL:sg.carousell.com
CarousellはCtoCのマーケットプレイスアプリを提供しているスタートアップです。シンガポール版メルカリといった方がわかりやすいかもしれません。ユーザーはスマートフォンアプリを利用して、売りたいものの写真を撮ってすぐにアップロードし、売り始めることができます。徹底的にモバイルファーストにサービスを設計していることによって、多くのユーザーを獲得することに成功しています。ファウンダーの3人は全員がNgee Ang Polytechnicの卒業生です。Startup Weekend Singaporeというハッカソンに参加し、週末の54時間でアプリのプロトタイプを作り上げたところから、このサービスのアイデアはスタートしています。その後、このサービスの実現を後押ししてくれたのは、FacebookやTwitter、ランディングページから得られたユーザーフィードバックだったそう。ユーザーベースを掴むまでには、サインアップしてくれたユーザーひとりひとりにメールを送るなど徹底的にユーザーを理解するためのアクションを取り、その結果、15歳〜24歳のモバイルネイティブなユーザーを引きつけたことが、今の成功につながっているとのことです。
-Founded:2014
-Funding:USD 5.7M
-Investors:Spring SEEDS Capital, August One
-URL:goshopmatic.com
最後に、ソーシャルメディア、個人、SMBがオンラインストアを簡単に立ち上げることができるサービスを提供するShopmaticを紹介します。このサービスを利用すると、ユーザーは15分以内にはストアを立ち上げることができ、eBay, Amazon, Lazadaといった主要なマーケットプレイスに出品することが可能です。ペイメント、ロジスティクスなども含めた包括的なオンラインストア運営サービスを提供することで、小規模なオンラインビジネスを支えています。シンガポールベースのスタートアップですが、2016年からインドにサービス展開し、2018年からは中東も展開のターゲットとしています。CEOのAnurag AvulaはMastercard、PayPalなどで勤務した経験をもつペイメントサービスのプロです。特にインド市場に大きな可能性を見出し、e-commerceへの理解度やテクノロジー、インフラの観点から、インド市場の難しさを理解したうえで、難しいからこそインド市場にチャレンジしたいとForbesのインタビューに語っています。
e-commerceそのものはもはや新しいテクノロジーではなく、私たちの生活の一部として溶け込みつつあります。一方で、モバイルデバイスやユーザーセグメントなどにより売る・買うという行為は異なり、それぞれの「売る・買う」に最適なe-commerceがあるのでしょう。モバイルファーストに特化することで成功したCarousellや、クロスプラットフォームに対応したShopmaticなどは、特定の売り方や買い方を徹底的に簡単にすることで、ユーザーの裾野を広げることに成功したサービスといえるかもしれません。
さらに、e-commerceはマーケティングやロジスティクスなどさまざまな周辺サービスとも接続する分野でもあり、それぞれの分野での変化が相互作用を起こし合うダイナミックな分野ということもできるでしょう。今回紹介したスタートアップのトピックには含まれませんでしたが、オフラインとオンラインの融合(OMO)などの大きなトレンドも、e-commerceの周辺で起きています。モノの売り買いという身近な行動だからこそ、変化に大きな意味があるe-commerceの今後の進化から目が離せません。
Writer:西村菜美(NUS)
Editor:伊藤隆彦(One&Co)