One&Co | 【Seeds of Innovation:15】消費が変化しているエンタメ市場で注目の、シンガポールスタートアップ3選。
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2020.03.24

【Seeds of Innovation:15】消費が変化しているエンタメ市場で注目の、シンガポールスタートアップ3選。

テレビ、ビデオ、映画などのエンタテイメントのデジタル化が進んでいます。PwCが公表している“Entertainment and Media Outlook 2019-2023”によると、シンガポールでは、2020年にオンライン配信ビデオサービスへの支出が映画への支出を超え、2021年にはテレビ、ホームビデオへの支出を超えるといわれており、エンタテイメントが従来のメディアからデジタルへとシフトするトレンドは今後も続くと考えられます。

このようなデジタル化は、エンタテイメントにどのような変化をもたらすのでしょうか? 先のレポートでは2つの変化が取り上げられており、ひとつはパーソナライゼーション、もうひとつはそれにともなう孤立かソーシャリゼーションです。パーソナライゼーションが進むことで、ユーザーはスマートフォンなどのデバイスで、コンテンツを自分の好みにあわせてキュレーションし、見るようになります。ユーザーはいつでもどこでも、例えば、電車の中、エレベーターの中、などで、好きなエピソードだけを選んでコンテンツを見ます。このような状況は、一面ではユーザーは個人の好みに沿って孤立していますが、もう一面では、リコメンドなどを通じたソーシャルなつながりを生み出すものでもあります。

今回は、このようにテクノロジーによって消費のされ方が変化しつつあるエンタテイメントの分野において、シンガポールで活躍するスタートアップを紹介します。

1)HOOQ

 -Founded:2015
 -Funding:USD 95M
 -Investors:Singtel, Warner Bros., Sony Pictures Entertainment
 -Web:https://www.hooq.tv/


HOOQはシンガポールの通信会社Singtel、ワーナーブラザーズ、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントによるジョイントベンチャーです。Netflixのアジア版といわれることもあり、シンガポールを拠点としてアジア地域向けにビデオストリーミングサービスを展開しています。Singtelがサービス運営に関わっている強みを生かし、東南アジア地域でのサービス展開の強みとなる、携帯電話を通じた利用料課金、そしてアジア地域に根ざしたローカライズを武器に、Netflixなどのグローバルビデオストリーミングサービスとの差別化を図ってきました。Amazonなど競合が増えてきた今後、どのように競合との差別化を進めていくかが問われそうですが、その取り組みのひとつとして、オリジナルコンテンツの開発に力を入れています。HOOQは2019年12月に、新たな取り組みとして、シンガポールのメディア開発庁(IMDA)とパートナーシップを組み、コンテンツ開発を行うことを発表。シンガポール発のコンテンツを増やしていこうとしています。

2)Bigo Technology

 -Founded:2014
 -Funding:USD 272M
 -Acquired by JOYY
 -Web:https://www.bigo.tv/


Bigo Technologiesは、ユーザー参加型のライブストリーミングプラットフォームを提供するスタートアップです。ライブストリーミングサービスのBigo Live、ショートビデオメッセージサービスのLikeなどを開発しています。社名のBigoは、”Before I Get Old”に由来しており、若い世代の夢の実現を応援するプラットフォームとしての位置付けがわかりやすいネーミングです。Bigoはシンガポールベースで東南アジアにサービスを展開する企業ですが、実は起業の中心となったのは、中国企業であるJOYYと関わりの深いメンバーです。CEOのDavid Liは2005年に中国でJOYYを創業し、モバイルベースのストリーミングサービスを展開。コファウンダー・CTOであるJason Huも元JOYYメンバーです。David Liは中国でのサービス展開経験をもとに、東南アジア版を作るべくBigoをシンガポールで創業。最終的にはJOYYがBigoを買収し、世界展開を加速しています。

3)Nexplay

 -Founded:2017
 -Funding:USD 940k
 -Investors:N/A
 -Web:https://nexplay.gg/app/


最後に、モバイルゲームにフォーカスしたモバイルライブストリーミングサービスを提供するNexplayを紹介します。Nexplayの特徴は、eスポーツのトッププレイヤーだけではなく一般プレイヤーにフォーカスしたストリーミングプラットフォームという点です。これまではモバイルゲームの主要サービスはモバイルゲームの開発でしたが、ゲームに特化したストリーミングプラットフォーム・ユーザーコミュニティという点で、新しいビジネスエリアが生まれつつあることが感じられます。コファウンダー・CEOのGabriel Benitoは、高価なゲームデバイスを持っていないような一般プレイヤーが、グローバルに他のゲームプレイヤーと競うことができるようなサービスを提供したいと語っています。個人で楽しむものだったゲームが、ストリーミングプラットフォームと出会うことによって、他のユーザーと一緒に楽しむという新しい楽しみ方を作り出しています。



今回取り上げた3つのスタートアップを見ると、テクノロジーが、コンテンツの配信とパーソナライゼーションを進めるのと同時に、個人がコンテンツの作り手・配信する側となることを可能にしていることがわかります。このようなコンテンツに対して視聴者がコミュニティを形成することで、これまでになかった形でユーザー同士の新しいつながりが生まれています。

シンガポールを起点としたアジアという地域、そして映画、ムービー、ゲームといったジャンルなど、共通の要素や興味によってプラットフォームが分かれている点も面白い点です。もしかしたら、Facebookのような、ひとつの大きなプラットフォームではなく、共通の関心によって分かれたプラットフォームが、未来をつくっていくのかもしれません。これからテクノロジーがどのようにエンターテイメントをアップデートしていくのか、今後の展開に目が離せません。

Writer:西村菜美(NUS) 
Editor:伊藤隆彦(One&Co)

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