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2020.01.08

【Seeds of Innovation:08】アジアの食料生産やサプライチェーンを支える、注目のFoodTech

シンガポールは国家全体の面積が720㎢と小さな国ですが、560万人(2017年時点)の人が住み、人口1000万人以下の国の中では3番目に人口密度の高い国です。その人口密度は、なんと1㎢あたり約7800人。東京都の人口密度が1㎢あたり約6400人であることからも、その密集ぶりをうかがうことができます。このような人の多さもあって、現在シンガポールの食料自給率は10%を切っており、ほとんどを輸入に頼っています。輸入元は、中国、マレーシア、アメリカがトップ3を占めており、日本も輸入元の上位となっています。

このようなシンガポールの食料供給の課題解決、そして食品産業を振興するため、2019年4月に新しくシンガポール食品庁(Singapore Food Agency: SFA)が設立されました。SFAは農林水産省、国家環境庁、保健科学局の3機関に分かれていた食品関連の機能を統合した機関で、この統合によって、食料のサプライチェーン上で起こる問題に対して、総合的にアプローチすることが可能になります。また、SFAは “30 by 30 vision”という、2030年までに食料自給率を30%にひきあげることを目的としたビジョンを設定し、今後の気候変動や人口増に影響されにくい食料確保を実現しようとしています。

このような動きの中で、食料や農業に関する課題を解決するスタートアップがシンガポールにも増えてきています。多くのスタートアップは、シンガポール国内だけでなく、アジア一帯の食料生産やサプライチェーンをターゲットとしており、今最も成長に期待がかかる分野といえるでしょう。今回はこのような、アジアの食料を今後支えるであろう、Foodtechスタートアップを紹介します。

1)Shiok Meats

  -Founded:2018
  -Funding:$4.8M
  -Investors:Y Combinator, Boom Capital, Beyond Impact,
        Aera VC,Entrepreneur First, Big Idea Ventures, Alpha
        Impact Investment Management, Individual investors.

Shiok Meatsは培養シーフードを開発しているスタートアップで、細胞を培養することで人工的にシーフードの肉を作り出し、クリーンで環境にもやさしいシーフードを供給しようとしています。現在開発が進んでいるのはエビですが、将来的には、カニ、ロブスターなど他のシーフードも開発を行っていく予定ということです。東南アジア初の培養肉スタートアップであり、アジア地域で需要の高いシーフードをターゲットとしていることで、Y Combinatorのほか、シンガポールの有力VCであるEntrepreneur Firstからも出資を受けています。

このスタートアップは2人の女性ファウンダー、Sandhya SriramとKa Yi Lingがシンガポールで創業しました。2人とも幹細胞の分野でPhDを取得しています。Sandhya Sriramはベジタリアンで、バイオテクノロジーの知識をサステイナブルな未来を作るために使いたいと思い、この会社を始めたとのことです。ちなみに、会社名のShiokとは、シングリッシュで「美味しい」の意味です。

2)umitron

  -Founded:2016
  -Funding:$12.9M
  -Investors:iDB Lab, Mirai Creation Fund, Innovation Network
        Corporation of Japan, D4V, IDEO

umitronは水産養殖を最適化する、IoTを利用したデータプラットフォームを提供するスタートアップです。養殖の生産コストの中で6-70%を占めるといわれている養殖の餌に着目し、人工衛星のデータと、いけすに設置したセンサーのデータを分析することで、餌やりの最適化を行います。餌のコストを下げるだけでなく、餌のやりすぎによる海の汚染も防ぐことができ、サステイナブルな養殖を実現することができます。現在、日本のほか、ペルーなどで実証研究を行なっており、東南アジアではタイのCPグループとパートナーシップを締結しており、グローバルに展開が期待されます。

umitronは、シンガポールに本社を置く日本人ファウンダーによるスタートアップです。ファウンダーの藤原謙さんは大学で人工衛星の研究開発に従事したのち、三井物産で衛星を活用した農業ベンチャーへの投資を担当。この経験から、水産養殖に関心を持ち、同じく人工衛星の研究開発を行なった経験のある山田雅彦さん、そして画像解析の専門家である岡本拓磨さんとumitronを創業しました。シンガポールに本社をおいた理由は、東南アジアが全世界の水産養殖の80%を担う場所だからということ。今後の人口増にともない、タンパク質のニーズも上昇することが見込まれています。効率よくサステイナブルな水産養殖は、このニーズに応えるものとして注目が集まっています。

3)SAgri

  -Founded:2016
  -Funding:N/A
  -Investors:N/A

最後に、インドで衛星データを農業に活用するビジネスを展開しているSAgriを紹介します。SAgriは衛星データを用いた土壌診断情報のデータベースを事業展開しています。農家は土壌の情報や収穫量のデータを簡単に取得し、管理できるようにするプラットフォームを利用することができます。さらに、その農地に最適な作物の提案を受けたり、農薬や肥料の適切な使用量を知ることができ、農業の生産性を高めることができます。インドでは金融機関とお金を借りたい農家をマッチングするマイクロファイナンス事業も展開しており、土壌のデータをもとに農業全般をサポートするサービスを展開しています。実はSAgriも日本人によるスタートアップです。ファウンダーの坪井俊輔さんはもともと大学で衛星の研究をしており、在学中に宇宙教育のスタートアップを立ち上げるなど、宇宙への関心をもっていました。同様に関心をもっていた農業の課題を、衛星データを使うことで解決できるのではないかと考え、このサービスを思いついたそうです。現在はインド・ベンガルールに拠点をおき、インドの農家の支援を行なっています。

食料生産の効率を上げ、サステイナブルにしていくことは、今後さらに人口増が見込まれる中で必須の課題です。この課題はひとつの国や特定の地域だけではなく、世界全体としての課題であり、かつ今後数年間という短い時間の中で確実に起こることだけに、さまざまな解決策が必要となるでしょう。今回は生産の効率化や培養に取り組むスタートアップを取り上げましたが、食品分野は他のさまざまな分野とも密接にかかわる領域です。保存や保管、ロジスティクス、加工なども含めて変化が起きていくでしょう。



Umitron、SAgriなど日本人がリードするスタートアップが、この分野で東南アジアに進出し、存在感を増していることは、とても印象的です。日本発のテクノロジーが、世界の食料生産をアップデートし、よりサステイナブルな世界を作り上げることに貢献していくことが期待されます。

Writer:西村菜美(NUS) 
Editor:伊藤隆彦(One&Co)

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