One&Co | 【Seeds of Innovation:04】シンガポール政府による初の人工知能(AI)国家戦略と、「教育スタートアップ」最前線①
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2019.11.25

【Seeds of Innovation:04】シンガポール政府による初の人工知能(AI)国家戦略と、「教育スタートアップ」最前線①

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シンガポール政府は、11/13にNational AI Strategyを発表しました。その内容は、AIを国家規模で活用していく、AIの活用が競争力を維持するカギになる、といったものでした。今回のような2030年までの中長期計画策定で、先進AI都市としてのポジションを狙っているようです。この戦略には5つの重点分野でプロジェクトを行うことがうたわれており、交通・運輸、スマートシティ・不動産、ヘルスケア、安全に加え、重点分野とされているのが教育です。

教育分野でAIを導入することによって、パーソナライズされた教育を実現することがゴールとされており、そのためにアダプティブラーニングとアダプティブな評価を行う方針が示されています。アダプティブラーニングとは、学習ニーズ、学習の開始地点や能力の異なる生徒それぞれに合わせた学習のことです。機械学習を用いて、ひとりひとりにあわせた学習コースをカスタマイズし、おすすめします。また、AIベースの評価システムを用いることで、先生は生徒の学習状況を効率的・効果的に評価することができるようになります。このことで、先生は生徒ひとりひとりの状況にあわせた、詳細なフィードバックを行うことができるようになると同時に、生徒の学習経験に対して付加価値をあげるための時間を作ることができるようになります。

これらの仕組みはシンガポールが2018年に国立学校向けにローンチした、SLSというシステム上で利用可能になるそうです。ここで取り上げられている、「パーソナライズされた教育」は、学んだ内容がわからないまま取り残される生徒を減らしたり、新しいスキルが必要とされる状況でできるだけ早く学ぶことができるようになったりと、教育の課題や新しいニーズを解決する上で重要なキーワードです。

そこで今回は、教育系スタートアップ3社をご紹介したいと思います。

1)Miao
  -Founded:2016
  -Funding:N/A
  -Investors:N/A

Miaoは数学、物理、生物、化学などSTEM科目に特化した、チャット形式で質問できるプラットフォームです。ユーザーがスマートフォン用のアプリから自分の知りたいことを検索すると、チャットボットが質問に答えてくれます。機械学習と自然言語処理を用いており、コンセプトや考え方レベルの質問にも対応が可能です。

また、キーワードだけでなく写真でも検索することが可能で、例えばユーザーが数学の問題の写真を撮って検索すると、似たような問題とその解法を見つけてサジェストしてくれます。さらに、質問の内容を分析し、自分が弱い分野がどこかを見つけ出して、改善のヒントを教えてくれます。AIで教育の効率と効果を高めることを目標としており、生徒が自分のペースで学ぶことができ、先生の役割を補完してくれる存在になりそうです。因みにファウンダーのBetty ZhouはNUS出身で、スタートアップもNUSの支援を受けています。

2)Cialfo
  -Founded :2014
  -Funding:USD 3M
  -Investors:DLF Ventures, Seeds Capital, YK Capital, Govin Capital, etc.

Cialfoは大学への出願をオンラインで管理するプラットフォームです。海外の大学への出願では、試験を受けるだけではなく、なぜその大学に入学したいのか、エッセイを書いて提出することが一般的です。また、エッセイの内容をブラッシュアップするために、カウンセラーと相談して、大学ごとにエッセイを作る必要があります。このプラットフォームを利用することで、出願状況、進捗状況、どのようなカウンセリングを行ったかなどを、保護者、先生、カウンセラーなど関係者全員が共有することが可能になります。また、大学の情報がデータベース化されていて、大学について調べることもできます。現在、36カ国、25000以上の大学がデータベースに登録されているそうです。

大学についての情報が蓄積されていくことで、これまでカウンセラーや受験者だけが知っていた情報が共有の情報として活用できる効果もあります。このようなプラットフォームで情報を集めやすくなることで、自分の関心に合ったカリキュラムがあるかなどを事前に知って、よりパーソナライズされた大学選びを実現することができそうです。

3)Gnowbe
  -Founded:2015
  -Funding:USD 2M
  -Investors:500 Startups, POEMS Ventures, Coent Venture Partners, -Personal investors, etc.

最後に、モバイルマイクロラーニングプラットフォームのGnowbeを紹介します。マイクロラーニングとは、比較的短い学習コースを短期間で学ぶことで、10分、15分といったすきま時間で学ぶことができるのがメリットです。主に社会人向けに、日本語からサイバーセキュリティまでさまざまなコースを提供しているほか、KPMGやMercerといった企業とパートナーシップを結び、各企業の専門領域をいかした学習コースをプラットフォーム上で販売しています。

変化が早く、次々に新しいスキルが必要とされる状況に対応した、学び続けることを可能にするプラットフォームです。ファウンダーのSo-Young Kangは日本でも働いた経験があり、アメリカ・アジアでの起業経験があるシリアルアントレプレナーです。シンガポール発のグローバルスタートアップとして今後の成長が期待できそうです。


以上、シンガポールの教育系スタートアップをご紹介させて頂きました。教育というと子ども向けの内容をイメージしがちですが、変化の早い状況の中で、新しいスキルを学ぶことは大人にとっても今後いっそう重要になりそうです。子ども向けから大人向けまで、さまざまな教育分野でテクノロジーが学ぶことを手助けしてくれるようになり、ひとりひとりのアンメットニーズを満たすような学びまでもが実現されるようになっていくことが期待されます。テクノロジーの力を借り、ひとりひとりが思い通りアップデートできるような世界になると、生き方や働き方自体も大きく変わっていくのではないでしょうか。

Writer:西村菜美(NUS) 
Editor:伊藤隆彦(One&Co)

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