NUS Enterpriseは、シンガポール国立大学でイノベーションと起業を推進するために作られた組織で、シンガポール国立大学の学生向けに起業支援のためのさまざまなプログラムを提供しています。
シンガポール国外でアントレプレナーシップマインドを学ぶためのプログラムであるNUS Overseas Collegesや、科学・エンジニアバックグラウンドの学生がテクノロジーを商用化するためのスタートアップ育成プログラムLean Launch Padがあり、Lean Launch PadにはNUS Business Schoolも協力してスタートアップのビジネス運営にあたります。NUS以外の学生向けにも、ビジネスアイデアをブラッシュアップするサマープログラムなどを開催しており、シンガポールでの起業について学ぶ場を提供しています。NUS Enterpriseは2001年にスタートして以来、さまざまなスタートアップを送り出してきました。CtoC売買プラットフォームであるCarousell、不動産ポータルサイトを運営する99.co、スタートアップコミュニティプラットフォームを運営するe27など多岐にわたります。
今回は、このような多彩なスタートアップを世に送り出す、NUS Enterpriseの注目スタートアップをご紹介します。
-Founded:2007
-Funding:USD 51.6M
-Investors:Summit Partners, Vertex Ventures, Sequaia Capital China, Shunwei Capital, Jiantou Huawen Investment, etc.
PatSnapは特許検索を簡単に行うことができるプラットフォームを運営しています。単なる特許検索にとどまらず、AIやビッグデータ分析を通じて特許ランドスケープやアナリティクスなど、特許を活用してイノベーションを推進するためのサービスを提供しています。現在では、40カ国以上、8000人を超える、企業から大学までを含むさまざまなクライアントを抱えるグローバルなサービスです。PatSnapはNUS Overseas Collegesプログラムの参加者だったJeffrey Tiongが創業しました。創業のきっかけは、Jeffrey Tiongがプログラムの一環で参加したアメリカのスタートアップでのインターンで、医療機器分野での技術・ビジネスのリサーチを行なった経験から生まれたそう。バイオメディカルの学生であったにも関わらず、技術リサーチに苦戦した経験から、技術リサーチを簡単に行うことができるワンストッププラットフォームというアイデアを思いつき、このサービスを実際に形にするべく、NUS卒業後にPatSnapをスタートしました。
-Founded:2015
-Funding:USD 2.6M
-Investors:Y Combinator, 500 Startups, Partech, GMO VenturePartners, Golden Gate, etc.
Xfersは銀行口座を利用したオンラインペイメントプラットフォームを提供するスタートアップです。東南アジアのe-commerceでは銀行送金の利用率が高く、売り手が入金確認を行うために、買い手が送金情報を別途共有する必要がありました。Xfersはいつ誰が送金を行なったのか簡単に共有できるような情報整理を行なっています。コファウンダーのひとりであるTianwei Liuは、NUS Overseas Collegesのプログラムで、シリコンバレーのアマゾンでインターンをしていたときにこのサービスを思いついたといいます。インターン中に8人の友達からアメリカでの買い物を頼まれたTianwei Liuは、友達に銀行に送金するように頼みましたが、全員が同じ金額を同時に送金してきたため、2週間かかって誰が送金してきたのかを確認することになったそう。この経験から、Xfersのサービスのアイデアを思いついたといいます。もともと、スタートアップを作るつもりではなかったのが、プロトタイプを作って公開するとユーザーがこのサービスを使い始めたとのこと。そのことをきっかけとして、フルタイムでXfersを開発するためにY Combinatorに応募し、シンガポール初のY Combinator採択スタートアップとなりました。
-Founded:2012
-Funding:N/A
-Investors:N/A
最後に紹介するのは、マイクロクレジットを活用した職業訓練サービスを提供するBagoSphereです。BagoSphereは、フィリピンの若年層を対象とした、コールセンター業務、コミュニケーションスキル、ITスキルなどの職業教育を行なっています。BagoSphereのトレーニングプログラム受講者は、卒業後の就業率が80%、トレーニングを受けていない人と比べて4倍の給与を得ており、トレーニングがよりよい生活へとつながっていることがわかります。2018年から社会起業支援非営利組織であるアショカの支援を受けており、シンガポールを代表するソーシャルスタートアップのひとつといえます。CEOでコファウンダーのLee Zhihanは、もともとボランティアに関心があり、ラオスのコミュニティに図書館を建てるプロジェクトに関わった経験を持ちます。図書館を建てた当初はうまくいったものの、数ヶ月後に再訪した際、マネジメントが交代し、使われなくなった図書館を見て、よりよいやり方を考えるようになったとのこと。のちにNUS Overseas Collegesプログラムで訪れたスウェーデンで、ソーシャルアントレプレナーのミートアップを主催するなど、アントレプレナーシップと社会貢献をつなげて考え始めます。この組み合わせによって持続的な変化を起こせるのではないかと考え始めた結果、BagoSphere の企業につながったとのことです。
NUSはシンガポールの国立大学かつ総合大学として、学生にもさまざまなタレントを擁しています。NUS Enterpriseのプログラムを通じて海外の文化や企業に触れることを通じ、学生が新しいスタートアップを生み出していった結果、Fintechからソーシャルまで多様性あるスタートアップが生まれていることが、今回見たスタートアップからも見て取れます。
どのスタートアップもシンガポールで起業しているものの、そのバックグラウンドに、海外に滞在した、海外のスタートアップで働いたなど、シンガポール外の影響を色濃く受けている点が興味深いく、日本のスタートアップや新規事業のヒントとなるかもしれません。2001年の設立から20年が経った今、改めてNUSがスタートアップの文脈でどのような存在になるのか、今後の展開から目が離せません。
NUS Enterpriseのwebサイトはこちらから
Writer:西村菜美(NUS)
Editor:伊藤隆彦(One&Co)
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